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「家元、どうかされましたか?」
部屋の外からトントン、と控えめなノックと静かな声がかかる。
それへ。
「なんもない、大丈夫や、下がり。」
「はい、失礼しました。」
部屋の前から人の気配が消える。
「す、すいません…」
「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそウチのが失礼しました。」
あの中山さん?ずっとあそこに居るんだろうか?
「大丈夫です。会話は聞こえん距離に居てますから。大声やと聞こえるみたいですけど。気になるようやったら払いましょか?」
「い、いえ大丈夫です。大声出した俺、いや僕のほうが悪いんで。」
「そうですか?それやったらええんですけど。」
おっとり、とお茶を飲む目の前の人の、今更に特殊な環境に驚く。
でも、もう、たぶん。
「あの、い、家元はっ…」
「はい?」
「こ、こ、恋人とか居てるんです、かっ?」
一息に言って俯いた。
きっと自分の顔は赤いに違いない。
沈黙がやけに長く感じる。
「…いいえ。居てませんよ、そんな人。」
顔を上げると目の前で微笑うキレイな人。
もう、きっと、引き返せない、
それは、恋する人。
end.
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