あの少年でもないけれど

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15歳になったサエさんは、義務教育期間を終え、成人しました。 成人すると、大抵の人は仕事をするようになります。 彼女は絵画というものをいたく気に入ったらしく、画家になってしまいました。 以来、仕事に忙しいサエさんは、私とぜんぜん遊んでくれません。 毎日まっしろなキャンバスを筆先で彩るばかりで、話しかけてもほとんど生返事ばかりです。 「サエさん、どうして仕事をするんですか?」 じっとりとむせかえるような湿気が立ち込めていた夏の朝。 カカリアの赤い花が咲く庭で、絵を描いているサエさんの背中へ問いをぶつけます。 サエさんは私の方へ背を向けたまま、声をキャンバスへ反射させるように返事をしました。 「ん~? だってさぁ、働かなきゃお金貰えないじゃん。」 私はムッとして、口を尖らせます。 「お金なんてなくたって生きていけるじゃないですか。」 現在では世界的に機械化が進み、ほとんどの仕事を機械がこなしています。 そのおかげで食べる物も住む場所も、デザインにこだわらなければ着る物も、無料で提供されるのです。 もちろん、全世界の機械管理や、政治、芸術、スポーツ、伝統工芸、新技術の研究・開発など、人間にしか出来ない仕事も存在し、その仕事をすれば政府から電子マネーが支給されます。 しかし、電子マネーは、人と人とが取引をするときに使うだけ。 電子マネーで買える物は、機械では作ることのできない、伝統工芸品、音楽、ゲームなど、別にあってもなくても困らないようなものばかりなのです。 サエさんは、ひときわ鮮やかな赤い色を筆に取ると、珍しく私へ振り返って下さいました。 「だって暇じゃん? 生きてるって感じしないんだよね~。」 筆を持った手で髪を耳にかけ、露わになった笑顔に、目の下に並んだ2つのホクロがアクセントを添えていました。 私はぷっくりとほっぺたをふくらませて、プイとそっぽを向きます。 「私と遊んで下さればいいじゃないですか。」 彼女はうーんと唸りながら筆の頭でポリポリと頭を掻きます。 「違うんだよね。何か責任感を持ってやりたいっていうのかなぁ。お前だってさ、仕事がなくなったらつまんないんじゃない?」 人間仕事の中でも、特に、政治家や全世界の機械管理など、責任の重い仕事は人気が高いそうです。 何故そんな仕事が人気なのか、私にはどうしてもわかりません。 「私はサエさんと一緒にいたいです。」
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