プロローグ

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彼はそびえ立つ建造物の壁を、屋根を、突起を次々に跳び移り、ムササビの様に素早く、猛禽類が空を舞う様に進んでいる。 街はこの国一番の都会。 建物はメートルで100を越すものがほとんど。更に上空には宙に浮く島々。 彼はこれらを跳び移ることで時に十数秒も宙にいるのだ。 そうなると先ほどの“走っている”という表現は間違いなのかもしれない。 そうして、彼はある目的地に向かっている。 だが、実際はそこに目的があるわけではない。 更に正確に言うと彼は目的地に目的があるかどうかもわかっていない。 彼はただ《顧問》の 『行けばわかるわよー。“待ち人あり”ってとこかしらぁ☆』 と、言うセリフ。 この忌々しい口調で語られたセリフ1つで彼らはこの寒空に放り出されていたのだ。 当然、彼はいま不機嫌だ。これが不機嫌にならずにいられようか。 寒さで指先の感覚まで無くなってきた。 吐き出された溜め息は白く濁り、空を舞う彼に置き去りにされた。
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