綾川涼乃による王道

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*** 「ふわぁ~……」 高校1年、5月始め―― カタ、カタ、カタ…… アスファルトをゆっくりと蹴るローファーの音が鳴り響き、閉じられたままの携帯電話はポケットの中で遅刻ギリギリを示している。 長くもなければ短くもない黒髪を手で弄り、怠そうな目は次第に見えてきた学校を捉え、大きな欠伸に誘われながら歩く男。 面倒くさがり屋のオーラをその背中に滲ませ、決して走ること無く歩くのはこの時間がギリギリであっても間に合う。そう知っているからだ。 これが彼の日常。学校なんて――の出だしで、公教育を批評出来るのは言うまでもない事実である。 「はあ……面倒だ」 彼は下駄箱に着くなり気怠さを溜め息で表現し、スローペースでローファーを指に掛けると、ソレの目の前で停止した。 右手に鞄、左手に靴。つまり両手塞がりで自分の下駄箱を開けることが出来ないのだ。 しばし睨めっこ状態は続いたが、ついに馬鹿らしくなったのか鞄を下に置き、自分の位置である古びた下駄箱のドアを開けた。 「………………」 昇降口から吹き込む風で髪が乱れても気にしない。 その瞬間、再び彼は停止状態となった。 何故なら目の前には―― 『死ね』 ――と、マジックペンで大きく書かれたレポート用紙が、いかにも乱雑にセロテープで止められていたからだ。 「………………」 驚きに視線と思考が停止していたのも束の間。 黙々と視線を1つ横の違う人の下駄箱に移し、開いてみる。 『死ね』 そこには全く同じものが張られていた。 「………………」 つまり、対象は自分一人ではない。どこかの性悪生徒の無差別的犯行である。 それを理解した怠惰男は、特別大きなアクションを起こす事もなく上履きを履く。 面倒くさい。だから反応しない。 それでも、いささか癪ではある。 ローファーを仕舞ってから、バタン!! と力いっぱいに自分の下駄箱を閉めることで少なからず、感情は表現した。image=424700935.jpg
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