scene1

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土曜の昼、ヒートアイランド化が進み、スコールが多発するようになったこの街で、僕は排気ガスに追い立てられるようにファミレスへと逃げこんだ。 人は適応能力が高いと言われるが、僕はそうじゃないらしい。 街の喧騒も、雑多な車も、狭い空も、何一つ僕を受け入れてはくれなかった。 それどころか、僕も日増しに嫌悪感がますぐらいだ。 ファミレスのドアを開けても、誰も気付かなかった。それもそうかも知れない。 何故ならば今は昼であり、一番の稼ぎ時であるのだろうから。 僕は近くにあった二人用の席に勝手に座る。そこでようやく、店員が僕の存在に気付く。僕の中にあった罪悪感と高揚感が膨らみ、そして、しぼんでしまった。 店員は何も僕に問わず、ただ機械的に『ご注文を伺ってもよろしいでしょうか。』とのみ聞いてきた。 違和感が、ないのか。 僕はまだという内容の言葉を口の中で呟き、首を振った。店内には学生の声と、主婦の言葉がごちゃ混ぜになって、ノイズをかき鳴らしている。分煙とは名ばかりで、僕には煙草の独特な臭いが鼻につく。 僕は一人、何もせずに世界から身を引いてただ存在している。 僕の居場所は、此処なのか。 僕は、ここにいていいのか。 僕はファミレスをでた。 何も注文せず、手絞りにすら手を触れずに去った僕を、店員はなんて思っただろうか。外は、何一つ変わっていない。少なくとも、そのはずだ。日の光が強い。こんな日は、この街の臭いが減る。僕は、僕を拒絶するこの大気の中で、思い切り空気を吸った。 僕は、この世界を愛している。
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