麗〈レイ〉

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「……はぁ……コーヒー入れてこよ…」 さき程、上村から預かった資料に手を付けずに腰を上げる。 私は給湯室に入るとポットを手に取り、カップにコーヒーを注いだ。ブラックで苦いそれを一口含む。 「美味し……」 豆の匂いと味に思わず安堵の息をふ、と漏らす。 ざわざわとしている社内。 ここに努めて3年が過ぎようとしていた。大学を卒業してすぐにこのIT関係の会社に入社してから、躓きもなく現在に至る。 『何もないのはいいけど、退屈…。まぁ、だからあの仕事も始めたんだけど。』 コーヒーカップを握りながら物思いにふける。 ふと、横の壁に貼られてある全身鏡が目に入った。 そこには、地味な私が居た。
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