死ぬことでの幸せ

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白く細い首に腕を伸ばす。 左右の指が絡まっていく。 そして力が込められる。 呼吸が出来なくなり、苦痛の表情を浮かべる遥。 このまま生きていても、遥は幸せになれない。 壊れてしまったのだ。 前川みたいな人間は、生きていては駄目なのだ。 例え妹だったとしても…… 「遥、お兄ちゃんが幸せにしてやるからな」 呻き声に近い、声にならない声が胸に響く。 もう無理なのだ。 遥は治らない。 なら死んだほうが、遥は幸せになれる。 “人間は愚かな生き物だ” “人間は……” “人間は……” 前川の言葉が、頭の中を駆け巡っていく。 その通りなのかもしれない。 騒ぎに気付き、ざわつき始めた周囲の人達。 なにかを叫んでいる人。 「もう、こうするしか方法はないんだ……」 「人間は愚かだ」 「頼む……よ!それ以上、何も言わないでくれ」 「あなたも自覚してるんでしょ?」 「黙れ!もうないんだよ…… 幸せになれる方……法は」 言葉がアクセルの役割を果たし腕に力が込められていく。 辛い、辛すぎる…… 歯が欠けそうになる程、食いしばり、目の端から涙が雨のようにポツポツと降り始める。 「ごめ……んな」 「どうして?」 他に方法はないんだ。 「……遥!お兄ちゃんが幸せにしてやるからな!」 涙を流しながら、声を上げて笑いながら…… 首に絡まっている、10本の指に力を込めた。 人間は愚かだ。 完
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