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「全員拡がれ!」
突然、一人の大人が叫んだ、タテガミがすぐそこまで近づいているのに気付いたのだ!
剣を持った戦いでは、あまり密集し過ぎるとお互いがじゃまで剣が思うように使えない。
広場での訓練が生きている、若い戦士たちは左右に広がり始めた、大人達も後方を固めるために広がるが、いつものライオンの動きとは違う事に気が付いた。
「何故タテガミが来たんだ?」
去年までのライオンの群れなら考えられない、いつもなら斥候で来るライオンも、初めに戦いを仕掛けるライオンもタテガミではなくヘイシ(雌ライオン)だ。
(ライオンの雄と雌の容姿が、はっきりと分かれている事は分かっていない、強いライオンにタテガミが現れると思われていた。)
タテガミはヘイシに比べて体がひとまわり大きい、もちろん力も強く、ヘイシを撃退出来てもタテガミを撃退するにはさらに多くの戦士を必要とする。
「いきなりタテガミかよ!」
サマリーが一人で撃退したのはタテガミだったが、それでもライオンの群れのヘイシが次々と逃げている中での戦いだった、その時のタテガミは戦うまえから逃げ腰だった、初めからタテガミを相手にする事になるとは思いもよらなかった。
サマリーはウェインの所に急いだ。
「ウェイン、タテガミが相手でも向かって行くんだろう?だがタテガミは強いぞ、怒りで体が固くなってちゃ食い殺されるぞ。」
ウェインは、サマリーの想像通りタテガミと対峙していた、ウェインの持つ剣の切っ先がタテガミの眉間を狙っている。
すぐ目の前には、体勢を低くして今にも飛びかかろうとしているタテガミがいた、それに会わせるようにウェインも体勢を低く構えている。
「良かった、このタテガミはまだ若い、二人なら追い返せる。」
サマリーはそう言って自らの剣を抜く。
「引っ込んでろ!俺の獲物だ!」
ウェインは、初めて目の前で見たライオンに臆する様子もなく、軽い高揚と流れる風を感じていた、良い気分だった、この気分を邪魔されたくはなかった。
しかし、ライオンの方は違っていた。
『目の前のニンゲンよりは明らかに俺の方が強いが、ニンゲンがもつ剣とか言う棒切れは俺の体を幾分か傷付ける、さて、俺が傷付かずこのニンゲンを追い払うにはどうすれば良い?』
と、考えている所に、新たに剣を持つニンゲンが現れた事で、自分が下がる事を選択した。
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