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そこへ「はあ……」と大きな溜め息が聞こえてくる。もちろん発生元は目の前にいるガンテツさん。
「まあ、気持ちはわからないこともねぇけどよ、ブレイダーってのは商人たちと同じで信頼を築くことが大事なんだ。いいか? お前さんがどれだけ剣や魔法の腕に長けていようが、どれだけ他人から人徳を集めていようが、ここじゃあまず先立つのは"実績"だ。それがなけりゃあ、大切な依頼は任せられねぇ。人の命がかかってるモンもある。わかるだろ?」
イカつい風体からはいまいち想像がつかないが、どうやら面倒見のいい性格らしい。
こんな親が幼い我が子へするように優しく注意をされると、なんだかいたたまれなくなってしまう。
「はい…………わかってますよ。なんというか、その……ちょっと肩すかしを食らっただけです。大丈夫。別に下の依頼をゾンザイに扱うつもりはありませんから」
「ガッハッハ! おう! それでいいんだよ、それで」
そういって、ガンテツさんは豪快な笑いをあげながら、カウンターから身を乗り出して俺の腕を力強くバンバン叩き、
「――で、どっちにするんだ?右か?左か?」と、こちらの意向を再び訊いてきた。
さて。気を取り直し、俺が今受けられる依頼を改めて見てみよう。
右の一つはただのお使い。ポルタという小さな山村へ薬箱を届けて欲しいというものだ。そう急ぐものではないのか、依頼の留置期限はまだまだ先である。
そして、もう片方は簡単な護衛。ウォーラスという少し長い街道を馬車で移動する間、狼から自分と荷を守って欲しいとのこと。指定された日程は明日の早朝。
ふむ……。
俺はしばらく考えた後、今度は堕気を一切捨てて誠実に答えた。
「それじゃあ、右で」
「ほう。本当にこっちでいいのか?」
ガンテツさんが即諾せずに、わざわざ聞き返してくる。どうやら、形式的な確認ではないらしい。
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