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「じゃあ、『ポルタ村への配達』依頼で決定だな。詳しいことは依頼状にも書いてあるが、依頼主本人に訊いてくれ」
そして、カウンターテーブルの奥から紙を一枚取り出し、
「ほらよ。これは依頼状の複写だ。簡単な内容だから必要ないとも思うが一応、な」
「はい。それじゃあ、向こうで昼食を取ってからすぐに向かわせてもらいます。スコアの件、よろしくお願いしますね。やっぱり、ランクはなるべくなら早めに上げておきたいですから」
「おう、任せとけ! 気をつけてな!」
ガンテツさんに見送られ、俺は依頼所を後にする。
うん。気さくでいい人だったな。
ああいう人を父親に持てる子供は、さぞかし幸せなんだろう。
そう――、心の中でひっそりと呟いた。
★ ★ ★
酒気が辺りに満ち溢れる。
ここはギルド内にある酒場。
言わずもがな、入ってすぐに感じた嫌な臭いの発生源である。まあ、その表現はあくまで俺の主観だが。
「先ほど振りです、店主(マスター)。軽くサンドイッチでももらえませんか?今さっき、依頼を一つ受けましてね。せっかくの入団初日ですし、本当ならゆっくりしていきたかったんですが、それはまたの機会ということで」
ぶっちゃけ、半分くらいは嘘だ。
いくら大切な依頼とはいえ、流石に一分一秒を惜しんで達成する必要があるものではない。
じゃあ、なぜわざわざ簡単に作れて短時間で食べられるサンドイッチを頼むのかというと、それはこちらの懐事情に問題がある。こちとら貧乏で金がない。
ギルド内部の酒場は、別に団員に無料で飲み食いをさせるためにあるわけではなく、むしろ逆で、通常よりも高値で酒や料理を振る舞う場所なのだ。
つまり、依頼料を国が負担するという名目で、国民の税金を俺たちの仕事報酬としてあてがい、そこから再び国庫金を徴収しようという魂胆なわけ。実に合理的である。
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