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もちろん、高値で酒や料理を頼むのが嫌であるなら、外へ出て手短な店に入ればいい。
それでもこの酒場が毎日賑わう理由は、親しい顔の店主や給仕がいて、たくさんの仲間との会話が楽しめることにあり、まあ、雰囲気というか流れというか、そういうのも少しは関係しているのだろう。それと聞いた話では、出される料理も非常に美味しいものばかりなのだとか。
「ほぉ、精が出ますな。まあ、若い内は世話しなく走り回る方が楽しいものでしょう。――して、今日はどちらの方に?」
グラスを布で拭きながら返事を返すのは、この酒場の経営を任されているライアン・ロットーさん。
今でこそ白髪が生え、肉付きも衰えてしまった温厚な老紳士ではあるものの、昔は覇気に満ち溢れた屈強なブレイダーで、なんと百人に一人しかなれないとされる、SSクラスにまで上り詰めたこともあるのだという。
これには俺の食指がビンビン動く。とても興味深い。今度、依頼がないオフのときにでも、じっくりと昔の話を聞いてみたいものだ。
「アイシスの街に行った後、ポルタっていう山村まで品物を送り届けるんです。距離的に考えて、早くても帰ってくるのは明日の昼過ぎになってしまいますかね」
「まあ。アイシスといえば、茶葉が有名ですね。ちょうどそこの茶葉が切れそうだったので、良かったら買い出してきてもらえませんか? ちゃんとお礼は弾みますよ?」
そう言って話に入ってくるのは、茶色のふわふわした髪を棚引かせた妙齢の女性。給仕と調理のチーフ担当であるクレアさんである。
「お礼ですか。駆け出しとはいえ、スコアがつかない分、少し高く付きますよ?」
俺の冗談混じりの言葉に対し、彼女は「もちろん」と満面の笑顔を浮かべて、
「どうです?これで一つ」
差し出したのは白い皿に乗った、分厚いサンドイッチが二つ。
三角に切り揃えられた三枚のパン生地に、色とりどりの具材が二層に別れて挟まっている。
瑞々しいレタス。濃厚な色をしたチーズ。鮮やかな赤身が引き締まったハム。それらが折り重なって小さな虹のような輝きを――、じゃ……なくて!
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