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いやいや。
ちょっと待ってください。
俺がさっきサンドイッチを頼んでから、三十秒ほどしか経ってませんよ?
確かに、「サンドイッ――」と注文を言い始めたあたりから、カウンターの隣にある調理場がすこし騒がしくなったとは感じましたが、いくらなんで早すぎでしょう。しかも、パンの表面にきれいな焦げ目がついてほどに手間かけてあるし。
そんな疑問に、クレアさんはさも当たり前のように答える。
「あらあら、何を言ってるんですか。三十秒しか、ではありません。三十秒"も"、ですよ。材料は取り出しやすいように揃えてありましたし、後はそれをきれいに重ねて形が崩れないように切り分けるだけでしたから」
う~ん。この分厚さをきれいに三十秒で盛り付けまで?
まあ、それくらいの機敏さでなければ、夜などの混雑した時間帯に対応できないのかもしれない。彼女の傑出したステータスなのだと、ここは素直に受け止めておこう。
ただ、まだ一つ解明されてない謎がある。
「じゃあ、その焦げ目はどうして入れたんです?見たところ、焼きたてほやほやのようですけど……」
「もちろん、焼きたてほやほやです」
これまたキッパリ。即答だ。
いや、だから三十秒で流石にこれは……
「あら?そんなことはありませんよ?こうやれば、ほら」
ボウッ、と宙にかざされた彼女の人差し指から、ワインボトル一本分ほどはある大きな炎が一瞬、勢い良く噴き出した。
魔法――
火の系統を扱える者なら誰しもが使えるものだ。ギルドに務めている者なのだから、酒場にいる給仕長がそれを使えても別段、何も不思議なことではないだろう。
「これでフライパンの底を一度に熱して、パン生地をプレスしたんです。そうすればすぐに焼けますし、パン自体も美味しくなるんですよ?」
なるほど――そう言いかけてしまったが、フライパンを一瞬で熱しきるにはかなりの火力が必要なはず。そんな大それたことを横でやられて気づかなかったのか、俺は。むしろ、そっちの方が驚きですが。
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