11人が本棚に入れています
本棚に追加
……いや、そんないちいち考えていても仕方ないがないな。
鉄は熱い内に打て。
飯は熱い内に食え。
出来立てがそこにあるなら、ありがたくいただこうじゃないか。
「……わかりました。茶葉の件、引き受けさせてもらいます。後で必要な量と種類をメモして渡してください、お金はこちらで立て替えておきますから」とサンドイッチで買収される俺。
そういっても実際、ただのお使い程度なら元は充分取れるはず。なんにせよ、昼食代が浮いたのは貧乏な俺にとって、この上なく僥倖だ。
「はい、お願いしますね」
そんな彼女がにっこりと魅力的な笑みを浮かべたときだった、酒場に新たな来客が現れる。
「あぁ~~~! 疲れたぜぇ~~~ッ!」
必要以上の声量で来訪を告げる男。
髪は赤く屈強な体つきで、背中には大き目なロングソードが担がれている。ただ時代錯誤というべきか、その身は銀色に輝く軽装鎧(ライトメイル)に包まれ、しかも髪色と合わない濃紫のマントまで棚引かせていた。
なんだろう、この妙ちきりんな剣士は。
「よう、クレアちゃん! お久しぶり! 今日は一人か? ま、昼のピークも過ぎたことだし、今はみんな休憩中か!」
一人で話始める男。
「昼間からうっせぇよ、ジェイル。黙れ。殺すぞ」
そんな騒がしく声を上げる男に、随伴していた一つの人影が辛辣な罵声を浴びせる。ちなみに、女だ。
黒いローブで頭まですっぽりと覆われたその姿は、悪徳な魔女を連想してしまう。
「ライアンさんもお久し振りです。十日振りになるんですかね。いやぁ、ブレイダーというのをやっていると、時間に対しての感覚が薄れてしまいます」
そして、最後の随伴者。
横の黒づくめの女性とは対象的に白を貴重とした服装で、三人の中では唯一まともに見える金髪細目の優男。
「本当なら昨日の朝に帰ってくるつもりだったんですが、アクワスの港町でイザベラが魚にあたってしまいまして、少々遅れてしまいました」
「おい、こら、ロー。余計なこと言うな。それに誰が魚にあたって?私はそんな貧弱じゃねー、ただの食い過ぎだ」
いや、みっともないことには変わりないと思うのだが。
むしろ、彼の好意(だと思う)を受けたまま、食中毒ということにしておいた方が女性を保てた気がする。まあ、見た感じ女を捨てちゃってる人なので、関係ないのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!