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カランカランカラン。
入り口を開けると垂れ下がった木板が軽快な音を立てる。
右手奥から聞こえるのは喧騒。
男女の入り混じった声が小さな館内をところ狭しと響き回っていた。
「ちっ……」
反射的にだろう、俺の口から舌打ちが漏れてしまう。
別に喧騒に対しての悪態ではない。ただ、この空間に溢れている嗅ぎ慣れない臭いが少々気に障ったのだ。
「お酒の臭いはお嫌いかしら?もうちょっと大人になれば、病みつきになるかもしれないけれど」
「……なりませんよ。臭いは慣れればどうってことなくなりますが、味の方は一生無理です。総じて、臭いを好きになることも無理」
正面から聞こえてきた女性の声に、俺は自前の銀髪を軽く手でとぎながら渋面を解かずに歩み寄る。
本当。馴れるまでが大変そうだな、この臭い。
「ふふっ。まあ、私もこの匂いはあまり好きじゃないわ。ワインだけならいいんだけど、そこに麦酒(エール)だとか蒸留酒(ブランデー)だとか、その他諸々が混じってくると流石にね。ちょっとしつこくて」
そう苦笑して、彼女は手に持っていた書類の束をトントン、と机の上で整える。
そして――
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