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「オカシラぁ~、この子猫ちゃん、どうするぅ~?」
「売っちゃう? バガンの人買い亭なら高く売れちゃうかもよ? ほら、綺麗なブロンドしてるしさ」
ケラケラと笑う双子に抑え付けられながら、わたしは強く歯を噛み締めた。
『家の外に出てはいけない。外には天人様に逆らう盗っ人が溢れ返っているからね』
そう父さんに言われてはいたのだけれど、まさかちょっと裏通りに入った瞬間、組み敷かれてしまうなどとは思わなかったのだ。
しかもわたしを抑え付けているのは、幾つか年下であろう二人の少女だ。恐らくは双子なのだろう。一瞬しか見えなかったけど、よく似た印象の二人だった。
男じゃないだけ身の危険は間近に感じられないけれど、会話の内容からしてそういった意味での『身の危険』も、そう遠くない事が残念ながらわたしにも分かってしまう。
「リズが捕まえたんだからぁ、リズが三割は貰うかんねぇ~」
「あっ、ずるっ! シズだって一番に捕まえたのにさ」
「シズは二番だよぉ~。一番に手を付けたのはリズだもん」
右腕を抑えている長い栗色の髪の少女が『リズ』で、反対側の左腕を捻っているらしい少女が『シズ』という名前だという事を頭に刻み込み、わたしは微かに動く頭を先へと向ける。
今更そんな事を覚えていても、なんの救いにもならないかもしれないというのに、変に冷静に状況を把握してしまう辺り、我ながらかなり図太い神経をしているなと思う。
そしてついでとばかりに、『オカシラとやらの顔も拝見してやろう』などと考える辺り、すでに『箱入りで世間知らず』の範疇を越えているのだろうな、と考えてしまい小さな苦笑が浮かんだ。
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