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「ねっ、オカシラぁ~。この子、リズが売ってきちゃっていい~? ちゃんと買い叩かれないように頑張るからぁ~」
「別にリズが頑張らなくても、ここらでウチらにコナかけてくるスジモンはいないって。ウチのメル姐さんは、怒ったらすげぇおっかないし」
わたしを抑え付けながら、高揚した言葉を『オカシラ』とやらに投げかけている双子は、その楽しげな声音からは想像も出来ないほどの圧力で腕を捻っており、まさに身動き一つ出来ない。
わたしとて、多少の護身術のたしなみはあるというのに、それを『赤子の手を捻る』程度の感慨で抑え付けているのだから、この双子は相当の使い手なのだろう。
まぁあくまでも護身術は護身術。
たしなみはたしなみ程度。
それに場数の違いもあるかもしれないけど。
それでもやはり悔しいものは悔しくて、いきなり家出が挫折したという無念さと、これからの身の上を考えて体が震えてしまう。
──あぁ、やっぱり《下の世界》は怖い所なんだ。
そんな後悔が今更ながらに押し寄せてきて、涙まで浮かびそうになる。
「あぁ~、コラコラ、そこの双子のガキんちょ共。目の前を歩いていただけのヤツをいきなり抑え付けて、『売る』相談をしだすんじゃねぇよ。どこの無法者だ、テメェらは」
しかし、一人ありとあらゆる最悪の未来を想像していたわたしに、面倒くさそうな声音でそう声をかけてきたのは、かろうじて動く首を上げ、なんとか視線を向けようとしていた先にいる男だった。
多分、リズとシズが『オカシラ』と呼ぶ存在なのだろう。他に気配らしきものはないし、何より口調には気安さが見て取れる。
しかし、何故だろうか? その『オカシラ』さんは、やたらと真っ当な事を言っている気がする。
まぁその声には、多分の疲れが含まれていた気もするけど。
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