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「なら帰んな。まぁ、タチの悪い双子から助けてやったお駄賃は貰ってくけどな」
憤然と声を荒げるわたしにも、彼はニヤっと唇を歪める程度の笑み漏らし、両手にぶら下げていた双子をポイッと投げ捨てるかのように放り出した。
「タチの悪いだってぇ~」
「冗談だって言ってるのにねぇ」
無造作に放り出された双子は双子で、自分達の扱いに文句を言うでもなく、地面に尻餅を着きながらも顔を見合わせケラケラ笑う。
そんな三人に、何がそんなに可笑しいのかと腹を立てかけ──『オカシラ』と呼ばれた男の手元でお手玉にされている見慣れたモノを見て、わたしは慌てて腰に下げたポシェットを弄った。
しかし、その中にあるべきハズのものはない。さっきまでそこに入れてあったハズのモノが、煙のように跡形もなくなっている。
家を出たわたしにとっての生命線。職と寝床を見つけるまでの頼みの綱。
つまり財布がない。
そして目の前には、ポシェットに入れてあったハズの見慣れた財布とよく似たモノを手元で弄びながら、ニヤニヤとした笑みを漏らすだらしない男。
そしていたずらに成功した猫のように目を細めて笑う双子。
──ひょっとして……スられたっ!?
いや、ひょっとしなくてもそうだろう。今の状況からしても、三人の表情からもそうとしか考えられない。
しかし思わず呆然としてしまう。
もちろんスリって財布を掠め取る連中がいる事は知識として知っていた。しかし、まさか自分がこうまであっさりと財布を奪われるとは思ってもいなかったのである。
正直な話、あまりにも違和感が無さ過ぎて、その手際が良かったのかどうかの判別もわたしには付かない。
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