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「さっすがいいとこのお嬢様。お小遣いにしても結構な額を持ってんじゃねぇか。
こんだけありゃ、今日の上がりにゃ十分だ」
「あなたっ、いつの間にわたしの財布を……」
スられた事に、わたしは全く持って気付かなかった。それどころか、財布を目の前に見せられなければ、ポシェットが軽くなっている事にも気付かなかっただろう。
双子達に抑えこまれ、関節をキメられて、その痛みに感覚が持っていかれてはいたけど、そんな事は理由にもならない。
その手際にはただ唖然としてしまう。
警戒して、ポシェットはしっかりと閉じてあったのに、気づけばその封が解かれ、中に入れてあったはずのモノがいつの間にか消えていたのだ。
しかも《オカシラ》と呼ばれる男に接触したのは、双子を持ち上げてわたしの上からどかせてくれた一瞬だけなのである。
驚くなという方が無理な話だろう。
「はん、こっちはコレで飯を食ってんだ。あんたみたいな天人相手に上手くやって、何不自由なく生活している《中天》のお嬢にも気づかれちまう程度のスキルなら、明日にも飯を食いっぱぐれちまう」
思わず漏れた掠れるような言葉にも、目の前の男はその手際を特に誇る様子は欠片もない。まさにこの程度なら造作もない、といった感じだ。
いとも簡単に。気付かせる事なく。そして入れてあったポシェットや、わたし自身には傷をつける事なく。
それは初めてスられたわたしからしても、相当な玄人の手際だと言えた。
少々……いや、かなり悔しくもあったけれど感心してもいたのだ。
まぁだからといって、財布をスられた事実は笑って済ませられる事ではない。玄人の芸に対するおひねりにしては、ちょっと額が大き過ぎるし、何よりその財布の中にあるお金は特別なモノなのだ。
「オカシラにスられてすぐに気付ける人なんていないもんねぇ~」
「わたしらでも、たまに油断してるとスられたりするしね」
ニコニコと笑うリズという少女と、苦笑混じりにヘラッと笑うシズにも、わたしは何も言葉を返せない。
返せるわけもない。
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