口の巧みな男

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「もっと多く言っておけばよかった…。」 白衣の男は肩を落とした。 「ふんふーん♪」 弥一はご機嫌にアスファルトを歩いてた。 「これでなんか美味いもん買うか。」 あのケバい愛人に渡すつもりはない。 これは俺のだ。 断固としてこの金は死守する。 「ピザ食うか。」 と、行き先を決めたときだった。 ガシッ 「!」 突然、ポケットに突っ込んでいた腕を掴まれた。 「あ?」 弥一が険しい表情でそこを見た。 「…。」 自分の胸の辺りにそいつの顔があった。 「誰?」 髪の長い少女だった。 目はまっすぐ前を向いていて、無表情だった。 ちょっと汚い。 「離せ。」 ブンッ 腕を振った。 しかし、掴む少女の手が外れない。 「おい。新手の客引きかなんかか?」 弥一は彼女をまじまじと見た。 汚い白いワンピース。くしゃくしゃの髪。 こんな寒い中、裸足。 まっすぐどこかを見る目。 でもその目は、ただまっすぐなだけで、何も見ていないようにも見えた。 「離せって!!援助交際、売春ならお断りだ!!」 ブン!! バッ 少女の腕が離れた。 「ったく…。」 弥一がまた歩き出した。 スタスタスタ…。 …ぺたぺたぺた。 「…。」 明らかについてくるのが分かる。
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