口の巧みな男

2/11
前へ
/150ページ
次へ
彼女と出会う前の俺は、 本当にクソ野郎だった。 自ら家を出、とある雑居ビルで人を騙したり、街に出ては金を巻き上げて歩いた。 底辺に落ちた仲間と、汚れきった金。 それが俺の全てだった。 … とある雑居ビル ピッポッパ プルルル… プルルル… ガチャ 「ああ、母ちゃん?俺だよ俺。実はさ、事故起こしちまってよ…。」 小汚い雑居ビル。 そこでせっせと詐欺を働く男がいた。 「そう。300万。払わないと俺殺されちまうんだ。」 いつもの巧妙な話術で、次々と金を巻き上げていく。 ガチャ 「…ふぅ。」 受話器を置いた。 「弥一。今日も全勝か?」 見慣れた男が近づいてきた。 「あたりめーだろ。今日は800万稼ぐ。」 「すごいね。流石だよ。」 笑って弥一の肩を叩いた。 「真智留。お前も稼いでんだろ?」 「ボチボチかな。キャッチで捕まえて脅したりしてるけど。」 「はは。まあ俺にはおよばねぇな。」 「そうだね。」 真智留はニコッと笑った。 「そういやこの間、ここの金を横領しようとした奴がいたんだって。」 「え?マジで?」 弥一がブラックリストを見ながら反応した。 「勿論見つかっちゃったんだけどね。」 「そいつどうなったんだ?」 「都内の湾に沈められちゃったみたいだよ。」 「へぇ。ドンマイだな。」 「怖いねー。」 「お前、顔が笑ってる。」 弥一が頬杖をつきながら真智留を軽蔑するように見た。 「なに?その目は。」 「…別に。」 弥一がブラックリストに目を戻した。 「俺が沈めたとでも思ってるの?」 「そう噂が流れてる。」 「噂?」 真智留が首を傾げた。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加