口の巧みな男

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「お前が危ない事をしてんじゃないかって噂。」 「もう充分危ない事をしてるじゃないか。」 「それ以上の事だ!お前がそいつを湾に沈めたって話が広がってんだよ!」 「デタラメだよ。俺はお前と同じ底の底だから。」 「…だよな。お前が人殺しなんてしないよな。」 「おいそこ。仕事しやがれ。」 部屋の一番奥にいる、キツそうな女が2人に指差した。 「あ、すいません。」 「喋る労力あんだったら、もっと電話して稼げ。」 「すいません。」 2人は平謝りした。 ガチャ 「はぁ…。」 汚い雑居ビルのドアを開けた。 下沢弥一 これは絶縁した家族からもらった唯一の財産。 ここに来て3年目。 家族と縁を切り、ここに来た。 荒れくれ者で、学生時代から不良だった俺は、そのまま大人になってしまった。 闇に手を染め、ずっと浸かってしまっている。 別にもう申し訳ないなんて思わない。 今はこのブラック会社にも慣れ、沢山の最低な仲間が出来た。 この丹野真智留は友達の一人。 この企業で出会って、すぐに打ち解けた。 こいつは結構不思議な人物で、その場の雰囲気をふわふわさせる。 勿論悪い事じゃないが、彼には少し嫌な噂がある。 「あーあ。血生臭い。」 突然隣の真智留がそう言い出した。 「なんだよそれ。 「鼻血が…。」 箱ティッシュを1枚2枚と取り出し、鼻の穴を押さえた。 「まだ午前中だぞ。」 「のぼせた。」 「どこでのぼせたんだよ。」 「だって、日の光を直に浴びてるんだもの。」 確かに、真智留の背中と頭に、暖かい日の光が差し込んでいた。 「カーテン閉めてこいよ」
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