口の巧みな男

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「…はぁ。」 真智留がため息をついた。 「あー…。彼女欲しい。」 突然。弥一がそう言い出した。 「あれ?ワンピースの似合う娘だったよね。」 「ブラック会社に勤めてるって知られたっきり音信不通だぜ。」 「あらら。やっぱりボスの愛人のような人じゃないと寄り付かないのかもね。」 「もうかわいけりゃ誰でもいいわ。」 「えー。投げやりだな。」 「真智留はそれでいいのか?」 「あ、俺はストライクゾーンの幅が広いから関係ない。」 へらへら笑いながら、そう言った。 「…。」 真智留の言う「ストライクゾーン」はおかしい。 基本どこを打っても「ストライク」になるのだ。 「逆にOUTはどこにあんだよ。」 「…40以上のおっさんと60以上のおばさんかな。」 「聞かなきゃ良かった。」 弥一が椅子に座りながら、真智留から離れた。 「大丈夫だよ。友達は友達と割り切ってるから。」 「もうお前と歩きたくないわ。」 「そんな言うなって。」 「お前、俺に彼女できたらいつの間にか食ってそうだもんな。」 「あはは。」 真智留がなぜか声を出して笑った。 「否定しろよ!!」 ■■■ 「…。」 暗い亜鉛色の雲の下。 都会のビルの狭間に佇む一人の少女がいた。 ぺた…ぺた…。 壁を伝い、慎重に道を探していた。 彼女の目の焦点は、どこか違うところに向けて、感覚で歩いているように見えた。 中学生くらいの子が、冬の寒空を白いワンピース一枚で徘徊していた。 「…。」 無表情で言葉も発せず、この空の上の暗い雲がよく似合う。 裸足で、ビルの狭間からなんとか出ようとしていた。
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