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「グォォッ!」
篠原が目の前にいても、未だ巨大な黄色い体が見える虎の右足が大きく動く。
ガキン、と嫌な金属音が辺りに響いたかと思うと、次の瞬間には篠原の右手に銀色にきらめく剣が握られているのが見えた。
俺には剣がどこから出てきたなど、不思議に思う余裕すらなかった。
すぐさま左方向から虎の巨大なかぎ爪が篠原を引き裂こうとするが、長剣によってそれは阻まれる。
「立って!!」
篠原の声が耳に届いた瞬間、俺は初めて自分が腰を抜かして座り込んでいることに気付いた。
「う、うわぁ!」
またしても情けない声をあげながら、ガタガタ震える自分の体に鞭打ちやっとのことで立ち上がる。
その間にも篠原と虎がせめぎあっているのが目に見えたが、俺にとってそれは恐怖の対象でしかなく、ただただその場から逃げたい一心で俺は走りだした。
「はっ、はっ」
息を荒げながら、しかし一度も足を止めることなく公園から出た俺はすぐに後ろを振り向いた。
――――篠原はまだ、巨大な虎と刃を交えていた。
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