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駆ける。
俺は篠原と目が合った。
時が止まったかのように、世界がゆっくりとスローモーションで動いているように感じた。
俺は駆ける。自分でもなんでわざわざ死にに行くような真似をしているのかわからない。
でも、目が合った時篠原は俺を見て
――――小さくほほえんだんだ。
わからない。
なんで遠くに逃げ出した俺を見て微笑むんだよ。
そんな悲しい笑みで俺を見るなよ。
くそっ。
「うわぁぁぁっ!」
叫びながら、自分でも制御のきかなくなった体は、虎のもとへとすぐにたどり着いた。
篠原は驚いた様子で、突然走ってきた俺を見たが、にこりと笑ってくれた。
だがすぐに俺は我に返る。
(この俺になにができるっていうんだ?)
その時篠原が叫ぶ。
「僕が敵の気を引き付けます!ハルトさんは“触って”ください!!」
返事などできない。緊張からだろうかのどが熱い。
篠原は虎へと体を向けたかと思うと、右に横っ飛びし叫んだ。
「こっちだ化け物!!」
その声に反応し、虎が篠原へと視線を向けて低く唸る。
俺はまたもや立ち尽くし、篠原と虎を傍観するしかなかった。
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