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革靴がカッ、カッと音を立てるたび、背中までさらりと伸びた長い黒髪が左右に揺れる。
切れ長の整った目は、常に何かを睨むように鋭い。
刀洞鞘子(とうどうさやこ)は武の道に生きる少女だった。
中条市では市長の発案により、七年前から興武奨励と若者の心身修養を目指し、教育に武術の習得が組み込まれていた。
幼い頃から武道を学び剣を嗜んでいる鞘子としては迷惑なことこの上ない。町の喧嘩自慢に余計な力を与え、他流試合との名目での私闘を市が容認してしまったのだから。
靴音が止む。
鞘子は目の前に立ちはだかる同年代の少年を見て、溜め息をついた。
(またか……)
学生服を着ているが、ベルト位置をだらしなく下げ、悪趣味なネックレスをジャラジャラと鳴らし、ツンツンの髪を真っ赤に染めたいかにもガラの悪そうな少年。それが木刀を肩に担ぎニヤニヤと薄笑いしながら、鞘子を見、行く道をふさいでいる。
鞘子は五間(約九メートル)ほどの距離を置いて立ち止まり、静かに口を開いた。左肩の竹刀袋の紐にかけた手を軽く握り込んでいる。
「私に、何か用?」
鞘子には大方の見当はついていたが、あえて尋ねる。静かだが、耳にはっきりと残る凛とした声だ。
「コレだよ、コレ。お前も使うんだろ」
コレと言いながら、赤毛の少年は、木刀の峰(みね)でコリをほぐすように己の肩を軽く叩く。鞘子にはその所作が不愉快だった。
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