過ぎた愛情

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敏也は一般的な家庭の一人っ子であり、両親との仲も良く、彼女もおり、幸せな日々を送っていた。彼女の名前は葉子(ようこ)。同じ大学に通っている、愛らしい人だった。 そんな幸せな日常に変化が訪れたのは、葉子との交際を始めてから二ヶ月程経った時だった。ある日、敏也の住んでいる部屋の郵便受けに封筒が入っていた。 それは真っ白い封筒であり、差出人は『君島聡子』と書かれていた。しかし敏也には君島聡子(きみしまさとこ)という人物には全く心当たりがなかった。 敏也は不審に思いながらもその封筒を開き、中に入っていた紙を取り出した。それは便箋であり、そこに書いてあるのは一文字ずつ念を込めて書いたかのように歪んだ字だった。 『あの女はあなたにふさわしくない。あんな汚れた女はふさわしくない。あんな醜い女はふさわしくない。あなたにふさわしいのは私。あなたのことを一番良く知っているのは私。私はいつもあなただけを見てる。あなたも本当は私のことが好きなんでしょう?あの女がいるから隠しているだけなんでしょう?私にはわかってるよ。だって……』 そこまで読んで敏也は読むのをやめた。それ以上読む気は全く起きなかった。 気持ち悪い。それが率直な感想だった。この手紙は何枚にもわたっており、敏也が読んだのは全体の十分の一にも満たない。にもかかわらず、敏也の心を圧倒的な不快感で満たした。すぐにその手紙を破り捨てて大学へ向かった。
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