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怖くないのは相手も同じだったらしい。
「悪いことは言わない。直ぐにその方から汚ならしい手を離しなさい」
そして僕は恐怖に震えました。鷹は獲物の精査を終えて仕留めに掛かるようです。
蛇に睨まれた蛙は大海を知らない蛙は井戸の中で蛇とにらめっこしましょう笑うに笑えないあっぷっぷぇー!?
あ、もう駄目。
「何度も同じことを言わせないでくれよ」
カチリ。俺の中で何かのスイッチが切り替わったような音がした。
「あんたらにとっちゃあ俺みたいな只の学生なんざ取るに足らない相手なのかも知れないけど……俺ごとき学生でも一秒も時間があれば人質をどうにかすることは簡単だろ?」
この少女が要人で、この黒服二人が護衛ならば、怪我を負えば相応以上の責任を取らされる筈だ。
人畜無害そうな俺は眠り、こいつらには有害な面をした俺が見えていることだろう。
狼狽こそ隠していても、迷いが見て取れた。
さて、もう一押しはどう切り出そうか? 恐喝の文句を考えていると、驚きの所から助け船が出てくる。
「道を開けて」
まさかの人質。
ストックホルム? たった少しの時間で仲間意識でも芽生えてしまったのだろうか。
「し、しかし」
「大丈夫、知り合いなの。旧友との再会を邪魔するのは無礼だと思わない?」
えっと、些か協力的過ぎません?
こちらからは伺えないけど、少女が眼力で圧倒しているのだと解る。
そして、黒服は渋々と道を開けた。唖然とする俺に少女は振り返らずに呟く。
「い、行こう?」
「あ、うん」
意図は不明だけど、少なくともこの少女は俺に不快感を抱いてはいないらしい。
「暗くなる前には帰るから」
そう黒服に告げた少女の声は何処か楽しげに聞こえた気がしたから。
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