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思い出はいつも自分に都合がいい。だって記憶と違って綺麗なものばかり想像できるから。だから色褪せて曖昧になればなるほど恋しくなる。
あの日、君と交わした何気ない再会を約束する『またね』だって、思い出になった今でこそ綺麗に見える。
会えないことの辛さよりも、懐かしさ……あの頃は楽しかったなぁって気持ちの方が先立つから。
けど。
もしその何気ない約束が思い出にならず記憶としてあったなら。
再会の『約束』が存在するなら。待ち人はどんな想いを抱えるのだろう。悔恨? 悲壮? それとも──。
いずれにせよ。
自分は変わってしまった。約束を交わしたあの頃の幼い自分はもういないんだから。
そう、自分は変わってしまった。君が望む自分はこの世界にはもういない。
思い出に仕舞われた『記憶』は、もう二度と『現実』にはならないのだろう。
──*
突然だが、俺こと鶴来楓(この春源王学園二年生)には友達と呼べる人や、大切な人と呼べる人は一人を除いていない……たぶん。
『いない』なんて表現よりも、作らない様にしてきたという表現の方が適切かも知れない。
故に、俺の高校生活は灰色と呼ぶのに相応しいだろう。
別に後悔もしていないし、変えようとも思わない。
これで良いんだ。
深く干渉しなければ、胸の奥底に隠した闇を覗き見られる機会は訪れないのだから。
本心は、退屈だった。
自発的なこととは言えど、孤独を感じることに慣れなんてあるのだろうか?
重ね着た虚の鎧は、孤独の分だけまた厚みを増してゆく。
俺は無意識に探していたのかも知れない。
その虚な呪縛から解き放ってくれる人を。
いや……忘れてしまっただけで本当は知っている筈なんだ。
だって一度──。
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