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突然の強風は座り込んだ男の後方から吹いた。風は歩み寄ろうとした二人にも吹きかかり──頭を覆うフードを散らした。
木刀を持った方は片手でとっさに押さえたが、金属バットを持った方のフードは完全に捲りあがり背に垂れる。頭部が月光のもとに曝された。
尻餅をついた男からは、丁度二人の後方に月が見えていた。完璧な円形……満月。
顔は逆光で見えなかった。
ただ、金色が目に入った。
月光に照らされた、一つに結われて風になびく、美しい金髪。
それは、まさに月と同じ色。
認識した瞬間、彼の頭に一つの記憶がよぎった。
『なぁ、知ってるか?』
なんのことはない、悪友の一人が煙草でも吸いながら、笑いながら話した逸話。
都市伝説、と言っても良い。
『この草薙(くさなぎ)市で好き勝手するとよ、正義の味方が懲らしめにやってくる……って話。
そのヒーローは月みたいな金色の目と髪をしてる、その名も──
“金獅子(ライオン)”っつーんだと』
下らない、と笑い飛ばした話と、目の前の光景が見事に合致した。
「ら、ライオ──」
男が思わず叫びかけたその瞬間。
凶器は振りかぶられ──男の意識は、黒く染まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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