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◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本当に勘弁してくださいよ、灰空先生。次は絶対にやりませんからね!」
「はい、わかっていますよ。申し訳ありませんでした、先生」
苦笑いして謝ると、同僚はすぐに背を向け部屋を去っていった。診察室には、彼一人が残される。
同僚はかなりまいっていた。二時間もしない診察と検査がよほど心労だったのだろう。
(まぁ、仕方ないな。何せ患者は『あの子』だ……)
同僚が部屋から出ていけば、悪いことをしたか、と軽く考えながら、彼──灰空 幽城(ハイゾラ ユウキ)は、白衣のポケットから取り出した煙草に火を点けた。
彼はつい先程まで緊急のオペ(手術)に参加し、執刀していた。そのために、『あの子』──担当している患者の定期健診を他の医師に任せなければならなかったのだ。
既に半日近く煙草を吸っていなかった。たったそれだけの禁煙に耐え切れず、身体が執拗にニコチンを欲している。
紫煙を深く肺に吸い込み、吐き出しながら背もたれに深く寄り掛かった。
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