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不意に、扉が開く。
灰空が目をやれば、そこには一人の幼い少女が立っていた。
本当に人間か。
初見ならば、そう疑うかもしれない。完璧と言える程に整ったその容姿は、まるで精巧に作られた人形のようだ。
裸足で部屋に踏み込み、扉を閉める。水色の真っ直ぐな長髪が揺れた。
「やぁ、ピュセル。今日も彼と遊んでいたのかい?」
「そうだぞ。また漫画もらったぞ!」
嬉しそうに笑い、片手に持った漫画雑誌を掲げた。
「そうか。良かったね」
「……なぁ、ハイゾラ」
「うん?」
ピュセルと呼ばれた少女は、笑みを消し、無邪気な眼差しを灰空へ向けている。
他意の無い、純粋な興味の宿った水色の瞳。無邪気な言葉が響く。
「ツバメとナツキを、本当に仲間にするつもりなのか?」
「……ああ」
灰空は、静かに頷いた。
「彼らは、素晴らしい逸材だ……“司祭”が放っておくはずがない。血は争えないね、全く」
唇がゆるく笑みの形を作る。
そして、柔らかく呟いた。
「必ず、すぐに入ってくるさ……あの『舞台』に、ね」
机の上のカルテと、患者の情報をまとめた紙に目が落ちる。
掲載された写真の中から患者──『あの子』が、鋭い金色の瞳でこちらを睨み付けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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