142人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼」はその世界を見下ろした。
十字路の角にある、比較的高い商社ビル。その屋上の端に危なげなく立つ。
無意識に口元が弛むのを感じるがそれも仕方ないだろう。「彼」は一仕事終えたところだった。
「……よーし、手直し終了。所々ブレてたからなー……もうそろそろ開会だし、しっかり整備しとかないとネ」
満足そうに呟けばその場に座り込み、後ろの落下防止フェンスに外側から寄り掛かる。
どこかからアルミ缶を取り出せば栓を開ける。プシッ、という炭酸が抜ける音が響いた。
そのまま口元に運び傾けると、口内に薄い柑橘系が交じった爽やかな味が広がり、弾ける。
世に人間の作った飲食料は無数にあるが、この炭酸飲料が彼の一番のお気に入りだった。
.
最初のコメントを投稿しよう!