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「あたちはヒーローになりたいっ!」
「へえ~っ! お姉ちゃんすごいね! ぼくもヒーローになりたいな!」
この時、ねーちゃんは6歳。俺は4歳だった。
「あたしはヒーローになる!」
「お姉ちゃん……そういうの恥ずかしいよ……」
この時、ねーちゃんは11歳。俺は9歳だった。
「あたしはヒーローだ!」
「そういうのやめてくれ……。俺がキツい」
この時、ねーちゃんは15歳。俺は13歳だった。
「いやー今日は良い仕事したぜーっ! やっぱあたしというヒーローがいる限り、この世に悪は栄えないんだよな!」
「あっそ」
この時――というか今、ねーちゃんは19歳。俺は17歳。
痛い。姉がすこぶる痛い。
ねーちゃんがヒーローに感化されたのは、いつのことだろうか。考えても分かるわけがない。俺の持っている一番お古な記憶はねーちゃんがヒーローヒーロー言っている姿なのだから。俺が物心ついた時から、もしかしたら物心つく前からヒーローヒーロー言っていたかもしれない。
ここで言うヒーローとは、正義の味方的ポジションで勧善懲悪を行動理念とし、なんか知らんが破壊活動に勤しむ悪の組織だーの、宇宙かどっかの横丁から来た凶獣だーの、別次元からやって来た頭良いのにアホみたいな考えを持ったやつだーのをばったばったと、拳やら剣やら銃やらロボットやら――ああ、もう思い付かねえが、そんなんでぼこぼこにして、強制改心させるあのヒーローだ。
そんなんにねーちゃんは憧れている。いや、もうねーちゃんはそんなんだ。なりやがった。
そりゃ誰だって――俺だってヒーローに憧れる時代はある。悪を叩く正義にそりゃ心奪われました。なんたらブレードだの、なんたらキャノンだの、なんたらロボだの――ああ、もう思い付かねえが、そんなんも集めました。デパート屋上でやる、誰こいつ的なヒーローのショーも見ました。それなりに楽しみました。
だがそれは子供ゆえの挙動で、いつか知らぬうちにそういうのから離れていくのが普通だというのに、ねーちゃんは離れなかった。
というか執着し続けた。
大人になっても戦隊物が好き。それは結構。別にそれで萎縮するようなことはない。好きなものは好きなように法と倫理に触れないレベルで好きになればいい。
だがねーちゃんはそういうんじゃない。
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