第一章 暮色

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私がそのようなホームページを始めたのも、私が女性たちと会う習慣が身についたのも、それはすべてひとりのある女が理由だった。 また、特定の女性と決して深入りせずに済ませる理由も、その女にあった。 結局、金沢リサとは週に何度かメールをする仲になった。 まだ再会はしていない。 向こうもそれは望んでいないような気がするし、なにより深みにはまるのが怖かったのだ。 私は、そのある女を長いあいだ目で追ってきた。誕生日も血液型も住所も母校も、あらかた知っている。口癖も髪の結い方のパターンも、しぐさも笑いじわの入り方に至るまですべて、把握しているつもりだ。 三年間、彼女の新しい表情を見逃すまいと、ずっとずっと見つめてきた。 だが、大切なプライベートの話はなにひとつ知らなかった。そして私にそれを訊く勇気はさらさらなかったのだ。 思えば彼女への恋愛は哀しいことばかりだった。 中学の頃は、すれ違いざまに目が合ったり挨拶がかわせただけで喜べるほどの過剰な自意識があったが、高校に入るとそのようなこともなくなった。 また心も落ち着いて、恋愛をあまり楽しいものとは思えなくなった。 それにも関わらず、私は彼女が好きだった。 なにがどうなろうと、いくらなにかに夢中になろうと、彼女は容赦なく頭から離れず、私はその残像にいつも苦しんだ。
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