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最近風が妙に冷えびえとしている。
私はホットコーヒーを頼むと、早々と席をとった。
突き当たりの一番隅の、向かい合わせの二人席。
場違いな客に、周りからの視線は至って冷たい。
同じ曜日に行くので、店員の顔はだいたい知っている。
「裕紀ちゃん?」
頭上から柔らかな声がした。
私は、ふと顔を上げる。
「カズミさん、ですか?」
「……うん」
彼女はウインナコーヒーを手に、向かいに座った。
「はじめまして、千葉裕紀です」
「あ、えっと、小野原カズミっていいます。和むの和に、美術の美ね。よろしく」
和美さん。
彼女は、こじんまりした感じのする、ごくふつうのOLだった。
そう華やかな感じではない。
だいたい、その気のあるひとは、服装がおとなしめだったり地味だったりするひとが多い気がする。
「和美さん、私の想像してた感じとはちょっと違いました」
「そうなの?」
「なんか、思ってたよりもきれい」
和美さんは少し赤くなって笑う。
彼女は知らない。
私はこのやりとりを毎回行っているのだ。
和美さんだけではない。長谷部さんにも金沢リサにも、全員に同じせりふを吐いてきた。
その哀しさや空しさといったらない。
そして、そんな社交辞令を、相手が女子高生だからと真に受けて恥じらう女性たちの愚かしさもすべて、あの女に対する私の不満を充たしてくれた。
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