第一章 暮色

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私に弟なんていない。 もっと言うと、私の地域の小学校の学童保育は、兄弟が迎えに行ってはならない決まりになっているのだ。 「じゃあ、失礼します」 心底嫌だと思った相手には、だいたいこの方法を使う。 これで騙されたり、またはなにかを察して傷ついたりしている顔を見ると、妙な快感が胸に走る。 ため息まじりに帰りの電車に乗り込んだ。 ちょうど帰宅ラッシュとぶつかってしまったらしく、席は少しも空いていない。 私はドア付近に立ち、カーディガンを学校指定のセーターに着替えてから、壁に背をもたれた。
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