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私はスクールバッグの中身を整理し始めた。
誰かと会う日は必ず、荷物を軽くしてゆく。
ペンケース、ポーチ、携帯電話、財布、定期。
LLサイズのカーディガンを入れた紙袋。
ポケットにはハンドタオルとティッシュ。
身軽になると、心も軽くなる。
学校を出てから少し歩いたところに位置する駅ビル。
ここ経由に新しい路線が開通してから、駅が一気に華やいだ。
近未来的な、モダンな外装。
「クラウドスクレイパービル」という長い名もついた(大して高くはないのだが)。
そこの化粧室で身支度をしてゆく。
まず学校指定の紺のセーターを脱ぎ、紙袋に入っていたキャメル色のカーディガンを重ねる。
髪をとかして眉を描き、香水をスカートの裾にほんの少しつける。
肌をフェイスパウダーで調え、薄くクリームチークをのせる。
唇には色つきのリップを塗る。
決して私は、派手なタイプではない。
本当は華美なものは嫌いだし、化粧も最低限で十分だと思っている。
髪は襟足だけ伸ばした潔いショートカットだし、ピアスだって開けていない。
けれど最初に会った女性の一言で、私は化粧に一手間加えることにしたのだった。
「裕紀は目元がきれいだから、もっとそこに主張をもたせたら?」
切れ長の目は、私を中性的に見せる最大の要因だった。
私はそんな目元が気に入ってもいたし、「私が隠しても隠しきれない本質の片鱗」だと気に病んでもいた。
けれど、その杞憂は彼女によって解消されたのだ。
彼女は私の目元を「きれい」だと言ってくれたのだから。
だから私は、目尻まできつくアイラインをひき、マスカラも強めにしている。
準備を終えた私は、いつもの待ち合わせ場所へと向かった。
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