第一章 暮色

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金沢リサはそれだけでなく、スキンシップが多かった。 カフェで話していて、私が何かの節に彼女をからかった瞬間だった。 金沢リサは私にもたれるようにして 「裕紀っていじわる」 とかなんとか口にしたのだ。 免疫のない私はどきどきした。 私がホームページで知り合った相手にときめいたのは、彼女がおそらく最初で最後だったにちがいない。 「金沢さんって、すごく美人ですよね」 私が酔ったように言うと、彼女は満足そうに不敵の笑みを浮かべた。 それがまたなんとも色気があって、素直に胸が鳴った。 私はネットで「裕紀」のハンドルネームを名乗り、女性たちにも本名の千葉裕子は明かさなかったけれど、金沢リサだけは私の名を知った。 私が教えてしまったのだった。 「裕子だと、どうしても女の名前にしか聞こえませんから」 私は言った。 「裕紀だったら、響きはユウキだから男にでも女にでもなれる。 それってすごく便利な名前じゃないですか」 金沢リサはそれを聞くと、笑いながら答えた。 「あたしは『裕子』の方が好きだなぁ。 あたしは女でいる裕子が好きだし、あたし自身女らしくいたいもん」 彼女の実家は地方なので、金沢リサは一人暮らしだった。 彼女の家まで軽々しくついていったのは、当然、そのような展開になってもかまわなかったからだ。
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