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二人と初めて話したのは、施設の小さな庭に咲いた桜の木の下だった―。 季節は春。 たった一本だけれど満開にその美しさを表現する桜を香織は一人佇み、眺めていた。 そこで何かを思う訳でもなく、 ただ…無心に、その花びらを見上げていた。 と、後ろから話しかけてくる明るい声。 「香織ちゃん…ここにいたんだ…。 みんな探してるよ…。」 香織は後ろを振り返った。 あの子だ…。 いつも笑ってる…。 年上の子。 「誰…?」 その少年の顔さえ知っていたが、他の子どもたちの名前は覚えようともしなかった香織からまず飛び出したのは、そんな言葉だった。 「誰って…、まだ名前覚えてくれてないの? 俺…優磨。 みんな優ちゃんって呼んでるから、それでいいよ。 よろしくね。」 まだあどけない笑顔で笑う優磨に、香織は答えもせずに再び振り向き桜に目をやった。
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