第1話「ひーろー」

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世界全人機関(WAPO)、天政10年発表。 ーー“悪”の定義と全人宣言について。 「ーー“悪”とは、総ての人類の敵であり、正義の反対であり、思想なく、目的なく、ただその性を人々の命で以って満たす厄災である。ーー我々は確固たる相互の連帯と、断固たる不退転の意思で以ってこれに対抗する。ーーこの宣言は正義である。そして、布告である。ーー」 ◆◆◆◆◆ 下卑た笑い声が街中を駆け巡る。 発信源は黒々とした大きな塊だ。腐った内臓のような表皮は不規則にに蠢動し、数えきれない程ある目玉は上に下に左に右に忙しなく動いている。 そして、驚いたことにこの塊には手足がある。しかも何の因果か、それは明らかに人の手足そのもので、まるでこの塊に人が飲み込まれ、足掻いているようにしか見えないのだ。 「ーー1230、現場到着」 口が見当たらないのに笑い声が響き渡る。嘲笑にしか聞こえない声が反響する。 ーーまるで、人の醜さが具現化した姿。 「目標は第2形態に移行しています。ーー被害は不明、しかしこの大きさから見積もると、ざっと50人程かと」 被害を免れた雑居ビルの屋上から下の様子を窺う。 ーー滅茶苦茶だ。舗装されていたはずの道路は見る影も無く無慚に土色を晒し、街路樹や標識、電柱などは折られているか、もしくは根こそぎ無くなっていた。行き場を失った電気が、電線の破損部から火花を散らし、傷ついた水道管からは嘆きの様に水が溢れ出ていた。
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