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夏を感じさせる蝉の鳴き声に、山や川に田んぼと自然に恵まれたこの地で育つ少女がいた。
彼女は市之瀬美代子(イチノセミヨコ)という。
学校に遅れない程度の時間に目覚めると、美代子は食卓に向かい、朝食であるトーストにかぶりついた。呑気に時間を気にせず食べているが、早いとこ食べてしまわないと、毎朝迎えに来る友達を待たせてしまう事になる。
「七海ちゃんが迎えに来たわよ!!」
「すぐに行くぅー!!」
母の呼び掛けに応じた美代子は、食べかけの食パンを一気に口の中に詰め込むと、鞄を手にして玄関に急いだ。
「美ぃちゃんおはよう。」
「待たせてごめんね!」
「気にしないで。それより早く学校に行こう!」
美代子の事を美ぃちゃんと呼ぶのは、同じ学校の同級生で、名前を福永七海(フクナガナナミ)という。
七海の家から美代子の家までは20分程の距離はある。途中の分岐路から学校に向かえば、その間々20分通学に掛かる時間は短縮される。
それでも面倒を掛けて迎えに来るのは、単純に美代子の事が大好きだからだ。
「もうすぐ夏休みだねぇ?美ぃちゃんの夏休みの予定は?」
「んー特に無いかなぁ....七海は何か予定あるの?」
「私もなーい。」
舗装されていない砂利道に転がる石ころを、ぽーんと蹴っ飛ばして七海は言った。
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