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貴弘くんは私の腕を離して。 私は暴れることもなく、ただ、泣いた。 泣こうと思ったわけじゃない。 涙が勝手にこぼれた。 服はめちゃくちゃに乱されて、私の体をよく知らない男がさわる。 身を任せるように、されるがままになっていたら、倒れ込むようになった私の体を貴弘くんが支えるように腕を握った。 「待った。やめろ、おまえら」 貴弘くんは友達に声をあげる。 「なに?まだ入れてないのに」 「女やるって貴弘が言ったくせに」 なんて、友達は不服そうで。 私は半裸に乱されて、貴弘くんにもたれかかるようにして、その貴弘くんの顔を見上げた。 私を見ていた。 「…抵抗くらいしろよ。なぁ?」 「犯罪者になりたいの?私が警察に訴えれば、確実に捕まるよ?…同意なら犯罪じゃないでしょ?」 素で言ったのだけど。 貴弘くんは私をそこに突き飛ばして、私は地面に転がる。 「やっぱやめろ。脅しても意味もないってわかった」 「確かに気も強そうだし、泣き寝入りしてくれそうもないしな。未遂でも訴えられそうだけど。 ユリちゃん、小悪魔なんて似合ってないから。やめれば?」 山下くんは私の顔を覗き込むように見てきて。 私は地面に倒されたまま、山下くんを視線だけで見上げる。 「犯されたかった」 私が小悪魔気取って言うと、山下くんは大きく呆れたような息をついて。 「ダメだ、この馬鹿女。貴弘、犯してやれば?」 「…悪かったな。その馬鹿な女につられて」 「おまえも馬鹿な男」 山下くんは貴弘くんに笑って。 私の頭を弓削くんみたいに軽く叩くと、貴弘くんだけを残して帰っていく。 脅し…って、私が本気で嫌がって泣けば、ここまでされなかったのかもしれない。 貴弘くんは私のそばにしゃがんで、私の顔を見てくる。 こんな場面での猫のかぶりかたなんてわからない。 「…ユリ、どこにその本音あるの?」 上坂さんって呼ばなかった。 ユリ…って、そう呼ばれるほうが違和感なくていい。 「本音だよ?男にかわいがられていたい」 「犯されそうになっても?」 「それでかわいがってくれるのなら」 私が答えると、貴弘くんは私を抱き起こして、自分でしたくせに、私の体についた砂を払って。 はだけた服を直す。 「ごめん。…けど、ムカつく」
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