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やだぁーっと大きく悲鳴あげて泣き叫べばかわいいものだったのだろう。
あまりのことに私は本音で無抵抗だった。
かわいくないのが本当の私だと、私は知っている。
イラつかせて、ムカつかせて、キレさせて。
本当にかわいくない。
少しくらい、かわいい素振りを見せなければと思って、泣き真似をした。
「ほんっとにわからない。茜ちゃんも言っていたけど。何がしたいの?」
「貴弘くんと別れたくない…」
「嘘いらない。…まだオレを弄びたいとか言わないよな?」
かなり冷たい返しをいただいたかと思うと、なんだかやっぱり単純な人で。
かわいい言葉よりも、小悪魔が好きなのかもしれない。
つってあげようかとも思った。
やめた。
「貴弘くん、単純だからおもしろくない」
本音ではっきり言ったら、殴られるかと思うような顔を見せられて。
少し覚悟を決めたのに、彼はそんな私だと理解した上で、私を抱き起こしたのかもしれない。
私の体は貴弘くんの腕に包まれた。
強く、私の体を抱きしめる。
「…もしかして、私に惚れてます?」
聞いてみたら、更に強く。
絞め殺されるんじゃないかと思った。
貴弘くんの溜め息が耳に聞こえる。
「ユリに振り回されるの嫌なのに、惚れてます。他の男に犯されてしまえばいいって思うくらいに憎い」
愛憎というものだろうか?
かなり深い。
それを理解はできないけど、かわいがられているらしい。
うん。そこは喜ぶ。
抱きしめられる腕は強すぎて苦しいけど。
「私は惚れてません」
更にはっきり言ってあげたのだけど。
「いい。わかってる。…オレ、そこまでプライドないから。ユリが飽きるまで…」
「飽きてます」
言ったら、貴弘くんは今にも泣きそうな顔で私の顔を見る。
かわいい。
年上のはずなのだけど。
単純で、やっぱりかわいい。
私が何も言わないで貴弘くんをただ見ていると、貴弘くんはその目を伏せた。
「さっきはごめん。これからも振り回してください」
なにか下僕発言された。
やっぱりかわいい。
その愛憎はだけどこわい。
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