5/11
前へ
/589ページ
次へ
やだぁーっと大きく悲鳴あげて泣き叫べばかわいいものだったのだろう。 あまりのことに私は本音で無抵抗だった。 かわいくないのが本当の私だと、私は知っている。 イラつかせて、ムカつかせて、キレさせて。 本当にかわいくない。 少しくらい、かわいい素振りを見せなければと思って、泣き真似をした。 「ほんっとにわからない。茜ちゃんも言っていたけど。何がしたいの?」 「貴弘くんと別れたくない…」 「嘘いらない。…まだオレを弄びたいとか言わないよな?」 かなり冷たい返しをいただいたかと思うと、なんだかやっぱり単純な人で。 かわいい言葉よりも、小悪魔が好きなのかもしれない。 つってあげようかとも思った。 やめた。 「貴弘くん、単純だからおもしろくない」 本音ではっきり言ったら、殴られるかと思うような顔を見せられて。 少し覚悟を決めたのに、彼はそんな私だと理解した上で、私を抱き起こしたのかもしれない。 私の体は貴弘くんの腕に包まれた。 強く、私の体を抱きしめる。 「…もしかして、私に惚れてます?」 聞いてみたら、更に強く。 絞め殺されるんじゃないかと思った。 貴弘くんの溜め息が耳に聞こえる。 「ユリに振り回されるの嫌なのに、惚れてます。他の男に犯されてしまえばいいって思うくらいに憎い」 愛憎というものだろうか? かなり深い。 それを理解はできないけど、かわいがられているらしい。 うん。そこは喜ぶ。 抱きしめられる腕は強すぎて苦しいけど。 「私は惚れてません」 更にはっきり言ってあげたのだけど。 「いい。わかってる。…オレ、そこまでプライドないから。ユリが飽きるまで…」 「飽きてます」 言ったら、貴弘くんは今にも泣きそうな顔で私の顔を見る。 かわいい。 年上のはずなのだけど。 単純で、やっぱりかわいい。 私が何も言わないで貴弘くんをただ見ていると、貴弘くんはその目を伏せた。 「さっきはごめん。これからも振り回してください」 なにか下僕発言された。 やっぱりかわいい。 その愛憎はだけどこわい。
/589ページ

最初のコメントを投稿しよう!

794人が本棚に入れています
本棚に追加