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私は特別かわいいわけではない。
中身だってこんなものだ。
儚く脆くかわいらしい女の子ってやつを演じている。
小悪魔気取って、男をひっかけて。
飽きたら、ぽいっ。
今までだってそうしてきた。
つきあっていないだけで、ひっかけるだけひっかけた人もいる。
そんなものかとつきあうことに飽きたら、こんな私が出来上がった。
だけど、こんな私でも深くハマった勘違い男は、今まで以上に私になついてきた。
「ユリ、待って」
声をかけられて振り返ると貴弘くんだ。
私は立ち止まり、貴弘くんがそばにくるのを見る。
並。
特別男前でもないし、特別不細工でもない。
背も普通。
体型は…痩せてる?
まぁ、並。
「貴弘くんだぁ。こんにちは」
私は笑顔を見せて、ついこの間のことも気にしないで挨拶をしてみせる。
猫かぶる必要もないのだけど。
猫を剥がした私でもいいらしい貴弘くんだからこそ、猫をかぶってやろうとした。
貴弘くんは私のそばまでくると、人目も気にせずに抱きついてきて。
「ユリ、かわいい。猫かぶってかわいい」
貴弘くんは私の頭に頬を寄せて、すりすり。
殴ってやろうかと思うくらいの、誉めているのか誉めていないのかわからない言葉だ。
私はむっとした気持ちを隠して、貴弘くんの胸に手をあてて引き離す。
「やぁだ。貴弘くん、人が見てます。そういうことは外でしないで」
「じゃあ、オレの家くる?」
貴弘くんはまったくわかっていないのか、それともわざとなのか。
どこの誰が、あんな愛憎見せられてなびくっ!?
私は額に青筋たてて、つくった笑顔もひきつる。
もっと表情の練習をしなければ。
「茜とよりを戻せばいいじゃないですか。応援してます」
まったくあなたに興味はないのだと、かわいく言ってあげたつもりだ。
茜に今すぐ返品したい。
落とそうと考えたことからまちがっていた。
「ユリ、オレ、ユリが好きだから、茜ちゃんに戻ることはできないよ」
少しせつなげに言われて、本気、どうやって引き離せばいいのか悩む。
私はいや。
私は惚れてない。
どれだけそういう態度をあからさまに出せば、この人は理解するのだろう?
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