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そう。これは私と貴弘くんの化かしあいのような気がする。
惚れてくれているのだからと、それを手玉にころころ転がすには、相手の感情が狂ってるとも思えて危険だ。
貢がせまくって、ハマらせまくったら、本当に殺されるかもしれない。
そんな危険な男と仲良くできるほど、私はまだ大人じゃないと思う。
どうでもいいと、貴弘くんのことを放置したくても、貴弘くんから私を追ってくる。
私は逃げた。
ひたすら逃げた。
その姿が見えるたびに、その声が聞こえるたびに、とにかく逃げてみた。
「…ユリ?貴弘先輩から必死になってなに逃げてんの?」
茜は息切れする私を見て、呆れたように声をかけてくる。
「あんたがっ、私の猫を貴弘くんに話すからじゃないっ!」
私は元凶であるモノを目の前に見て声をあげた。
「おかげで嫌われたんじゃないの?」
あれが嫌いだからやるというのなら、かなりの嫌がらせになると思う。
私は本気でいやだ。
「茜のなんだから、私に声をかけないように言ってよっ」
「もうあたしの彼氏じゃない。ユリが奪ったんじゃないっ!貴弘先輩にごめんって言われたのはあたしだよっ?」
茜はキレた。
なんでもいい。
好きなら私から今すぐ奪ってほしい。
あんなのにつきまとわれちゃ、他の男にも手を出せそうにない。
私は茜が貴弘くんを取り戻すために、どうすればいいのか助言でもしようとした。
あれはM。マゾ。
冷たくすればするほど、なんか燃えてる気がする。
だったら…。
私が声をあげようとしたら、後ろから目隠しされた。
「だーれだ?」
って、いちゃカップルかよっ。
その声はまちがいなく貴弘くんしかいない。
ここに茜がいるというのに、なにやってるんだか。
「…あたしたち、今、そういう冗談通じない話をしていたんですけど?」
茜はキレ気味に言って、私はその手を捕まえてほどいて、後ろを振り返る。
私の握る手は山下くんのものだった。
「あ。見られた。ユリちゃん、茜ちゃんとなに話してた?」
山下先輩は笑顔を見せて、私の指にその指を絡めて握ってくる。
私を犯そうとしたそれは、たとえ貴弘くんの計らいでも、実行していたのはこの手で。
私は凍りついた。
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