795人が本棚に入れています
本棚に追加
「トラウマできたか」
ぼそっと呟くように、貴弘くんは口にした。
その顔を見ると、目は少しにやついていて、いい気味だと言われている気がした。
「そ…んなわけないじゃないですか。山下先輩、セクハラですよ?」
私は頬を膨らませて、怒った顔をつくって山下くんを見る。
貴弘くんの友達、そう甘くはない。
山下くんは更に私をからかうように、もう片方の手を私にのばしてきて。
私はビクッとして、後ろに身をひく。
これが仕返しなのだとしたら、かなりひどい虐めだ。
女の子の恐怖心ってものをわかってない。
わかっていてやるなら、かなりの酷さだ。
正直、こわい。
ふれられたくない。
特に山下くんにはっ。
「ユリに何かしたんですか?」
私の様子を見て、茜は不思議そうにそこにいる先輩二人に聞いた。
「軽いイタズラを。…ユリ、ごめんな?」
猫なで声で謝られたって、今、私は確かに見た。
貴弘くんがトラウマと言ったときのあの顔を。
猫かぶりっ?
やっぱり化かしあいっ?
「絶対に許しません。貴弘くんと山下先輩が私を犯そうとしたって学校中に言ってやるっ」
「ユリっ?なにっ?ほんとにっ?」
茜は驚いたように声をあげて。
私は強く貴弘くんと山下くんを睨む。
「嘘だって。茜ちゃんだってユリちゃんの嘘つき度合いはよく知ってるだろ?」
山下くんはしゃあしゃあと言ってくれて。
茜は振り回されまくる。
この中で、一番単純でかわいい人は茜なのだろう。
私は握られた山下くんの手を振り払おうともがく。
もがいたら、ぎゅっと握られた。
「助けてって言ったところで、ユリちゃんを助けてくれる奇特な人はいない。悪い女になりたいなら、もっとうまくかわせ」
山下くんは私の手を離す。
そんなものになりたいとは誰も言ってない。
小悪魔は気取っても、モテたいだけじゃっ!
内心、キレながら私は泣き真似をした。
悔しくて本当に涙が出そうだ。
「…ユリ、大丈夫?」
優しくて単純なかわいい茜は、貴弘くんのことも忘れたように私を心配して声をかけてくれる。
「大丈夫、大丈夫。ユリちゃん、そう簡単に泣かないから」
山下くんに言われて、私はブチッときた。
トラウマ克服のためにも、次はこいつを落としてやるっ。
最初のコメントを投稿しよう!