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私は山下くんという人を、貴弘くんの友達という形でしか知らない。 フルネームは山下夏希。 なっちゃんだ。 貴弘くんを追っているとき、たまになっちゃんと山下くんのことを呼ぶから覚えていた。 けっこうな貴弘くんの友達だと思う。 だいたいいつも貴弘くんの隣にいるイメージがある。 その容姿は…、並とは言わない。 なかなかに男前だ。 ただ、私は男前なほど好きではない。 手を出したら遊ばれそう。 猫かぶりは即バレしそう。 そんな理由で。 モテるのはいいけど、弄ばれるのはごめんだ。 なっちゃん先輩に彼女の影らしきものはない。 男前ではあるけど、特別モテている様子はない。 1つ上の学年だからこそ、情報は少ない。 なっちゃんをいかにして、落とそうかと悩みながら、私は教室でなぜか弓削くんとプリント仕訳作業。 同じ委員をやらされていたりする。 委員なんて小学校、中学校過ぎればないようなものだと思っていたのに、この学校、たまに用事を押しつけてくる。 ちなみに保健委員。 仕訳させられているプリントは、生徒の意識調査だかなんだかのアンケート。 「…で、なんでこの思春期調査みたいな恥ずかしいものを、俺とおまえが仕訳しなきゃならない?」 「私も恥ずかしいから言わないで」 「欠片も思ってないくせに」 弓削くんにはどこか猫かぶりはバレバレだ。 貴弘くんは茜に言われて気がついたのだろうけど、なっちゃんには…最初からそういう女に見られていた気がしないでもない。 男にこうも簡単に見破られるようになるとは。 もっとかわいく作り込まないと。 作り込みすぎて、わざとらしくなっているのかもしれない。 どっちにしても、今はなっちゃん先輩。 猫かぶりは意味がない。 私と弓削くんは黙々とアンケートをまとめていく。 イエス、ノーで数を集計。 「次、イエス、ノー、ノー」 弓削くんは読み上げてる。 よく聞けば、意味不明。 「弓削くんはした?」 「イエス…って、おいっ。間に変な質問挟むな」 「なるほど。イエスか」 「下ネタやめろ」 「照れてるの?かわいい」 私はきゃっと笑ってみせて、弓削くんをからかうように、その腕にふれてみる。 無言で振り払われた。 つまらない。
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