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あまりしつこくすると、また叩かれそうだからやめた。
やめたかわりに、じっとその顔を見上げる。
…むぅ。これもまた少し並ではないかな。
モテるかもしれない顔をしていらっしゃる。
そういえば、クラスの誰かが弓削くん、かっこいいと騒いでいたっけ。
私の視線に気がついたように弓削くんは私を見る。
不機嫌な顔ばかり見せてくれるけど。
なっちゃん先輩よりも幼いかっこよさってところかなぁ。
「…さっさと書け」
「…かっこいい…って、言われる?」
「言われたことはある。早く帰りたいから、早く書け」
「かっこいいね。彼女いるの?」
「…いない。もう先に帰る。一人でやれ」
弓削くんは手にしていたアンケートをおくと、私から逃げるように歩く。
私は黙ってその姿を見ていた。
弓削くんは自分の席で鞄を手にすると、大きく溜め息をついて、また私のところに戻ってきてくれる。
「なに?」
「キスしよ?」
普通に言ってみた。
弓削くんは机の上に片手をつくと、私の唇にキスをくれた。
軽くふれた柔らかい唇。
「満足?」
キスしたくせに、なんだか色気もない。
その制服を掴んで、引き寄せると、もう一度キスをくれた。
さっきよりも少し長く。
誰かに見られるかもしれない。
そんな妙なドキドキ。
ちょっとうれしくて、弓削くんの唇が離れても、私は目を閉じていた。
「キスだけ?」
聞かれて、私は両腕を弓削くんに差し伸べて。
弓削くんは私をその腕に抱きしめてくれる。
すりすりとその弓削くんの肩に顔を擦り寄せて甘える。
その鼓動、けっこうドキドキしてくれていてうれしい。
「どこまでが猫かぶってんのかわからない…。やっぱ気持ち悪い。おまえ」
「キスして抱きしめてくれるくせに、そういうこと言うんだ?……私はけっこう好き」
「俺は嫌い」
嫌いって言いながらも、抱きしめてくれていることには変わりない。
かわいがってくれている。
…茜が好きなのかもしれないけど。
欲望だけでも、かわいがってくれているのなら…いいか。
……いいのか?
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