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かわいがってもらえるのはうれしい。
ただ惚れられるほうが、もっとうれしい。
追いかけられるのが好きではあるけど、貴弘くんのように、なんだかこわい一面を見せられたあとに追いかけられたくはない。
惚れろとすべての男に命令できたのならいいけど、ま…、無理だ。
せめてかわいがってというところ。
私は私を猫かわいがりする貴弘くんに捕まって、わしわしと頭を撫でられまくる。
これはいや。
貴弘くんも何かかぶりものでもしていそうでこわい。
化けの皮を剥がしてしまったときが恐ろしい。
そりゃ、私だって猫かぶってるんだし?
ヒトのこと言えたものでもないけど。
みんな、何かしら猫かぶってるんじゃないかなとも思う。
私のは厚着しすぎてるけど。
「飽きないなぁ。おまえ」
呆れたように夏希ちゃんが声をかけてくる。
私はきらりんと夏希ちゃんに目を光らせて、ターゲット確認。
「山下先輩、助けてください」
私は撫で撫でとひたすら貴弘くんにかわいがられながら、夏希ちゃんに求めてみる。
「邪魔するなら向こういって、なっちゃん。オレ、ユリといちゃつき中」
貴弘くんはぎゅっと私を抱きしめてくる。
いや、私、いちゃついてないですけど?
「別に今日じゃなくても、しばらくは寄ってくるだろ。ユリちゃん、俺を落とそうと狙ってるっぽいし」
夏希ちゃんはなかなかに鋭く察してくれる。
さっき目を光らせてしまったのが悪かった模様。
ついでに、夏希ちゃんに助けを求めたのはあからさますぎたか。
今までそんなことしたこともなかったし。
「男好き。オレがこんなにかわいがってあげてるのに」
貴弘くんは撫で撫で、すりすりと私に寄ってくる。
あの愛憎さえなければ、それはうれしいとも思えるのだけど。
「オレに惚れられるように仕向けた自分を存分に悔やんでくれ」
私は思いっきり嫌な顔を見せる。
貴弘くんはまったく気にしてくれない。
やっぱりこれはただのいやがらせっ?
あの下僕発言はかわいかったのに…。
つまらなかった毎日。
なんだか災難ばかりになっている気がしないでもない。
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