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私には友達と呼べる人は少ない。
言葉をかわす程度なら、『知り合い』という言葉に置き換えて思う。
昼休み、私は茜に誘われて、一緒に中庭でお弁当を広げた。
校舎と校舎の間にある、少し整えられて公園のようにも見える中庭。
そこのベンチ。
私は口数少なく、茜の話に相槌をうつ。
茜はよく喋る。
私にとってはどうでもいいと思えることを。
またその彼氏の話になって、茜の幸せそうな顔を横目に見る。
いや、幸せなんだろうけどね。
「茜ちゃん」
茜にかけられたその男の声に、私と茜は揃って顔をそちらへと向ける。
茜は私の制服の袖を引っ張って、言葉なく、うれしそうな顔を見せる。
どうやら、あれが1つ上の先輩、茜の彼氏の貴弘くんらしい。
貴弘くんは当たり前のように、私と茜の前にきた。
「茜ちゃん、ここでいつも食べてるの?」
「はい。先輩はもうお昼食べました?」
なんていう会話が、私の隣で交わされる。
どうでもいい…とは思うけど、ラブラブカップルを隣に見るのは腹立たしい。
私には彼氏はいなかった。
中学の頃に一度、つきあったことはあったけど、つきあったという形だけのもので、1週間で何事もなく終わった。
その次は高校1年で1ヶ月つきあって別れた。
そんなものかと思う反面、こういうのが身近にいると腹立たしい。
私は横目に茜を見る。
そう。理由をつけるなら、やっぱりただの嫉妬。
そういうものだと、変に理解してしまった私にないものがある、茜に対する嫉妬だ。
「茜、紹介してよ」
私は胸の中の腹立たしさを隠して、茜に笑顔を向ける。
そして貴弘くんに、にこっと笑ってみせて。
「えっと…、彼氏の貴弘先輩。で、友達の上坂友梨音」
茜は照れた様子を見せながら、私に貴弘くんを紹介してくれた。
貴弘くんは茜に彼氏と言われて、少し照れた様子で。
内心、勝手に好きなようにいちゃつきやがれと思いつつも、私は笑って貴弘くんに首を傾げるように挨拶してみせる。
そう。私をよく知る人は私を男好きだの、ぶりっこだのいう、いわゆる猫かぶりだ。
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